「住み手に安らぎをもたらすもの」…これは住宅の最も大切な機能、目的と云えます。
このコラムを担当して今回が最終です。今迄の4回の内容のまとめとして再び同名のテーマで終えたいと思います。建築家として住まいにおける快適性、特に空気環境に関して日頃考え、また実践しているところを述べさせて頂きました。
私達をとりまく、「住まいの環境」特に都市の厳しさは加速度的に増しています。土地の細分化による狭小な宅地、ヒートアイランド現象等々枚挙にいとまがありません。
住宅メーカーなどの最近の住宅の大多数は工業製品であります。温湿度のコントロール、空気の質、明るさ、静寂さなど住み手が五感で受けとめられる殆んどの快適性は、申し分なく満足される状態に至っています。加えて、自然エネルギーの活用など、究極の姿に迄高品質を追求されています。都市でも農村でも日本中、何処にあっても均質にその快適性は享受される筈なのです。
ところがもう一歩深く考えてみると、各々立地する場所の気候風土に培われ、絶妙に淘汰され、何世代にも住み継がれて来た伝統の住い−深い軒、庇で守られ、木、紙、土などやさしい素材で包まれた自然との接点の微妙な間合い、例え切取られた人工的な自然であっても、中庭などから緑、風、光が導入される。こんな伝統の手法−現代的な翻訳であっても−この感覚が住み手の心を刺激し、精神的な「安らぎ」というこの上なく大切なものを備えた本当の快適性が住み手には与えられるものだと考えています。
ここで、住まいの空気の環境の物理的側面について少し、掘り下げて考えてみたいと思います。
建築の世界では、専門分野が確立し、各々区分されすぎている感があります。構造躯体、内外の仕上に関わる範疇、いわゆる建築という分野がまず主体としてあります。従来、給排水、電気設備などと同様に室内の空気環境は建築主体に付随、付帯的なものとされていました。最近になって、住環境を物理的に直接左右する空気に関して、空調、換気のシステムが建築主体構造と一体化、融合されて扱われるようになって来ている部門があります。—これは、特にパッシブソーラー−あるいはアクティブなものも同様ですが、−これらは、建築主体構造との一体化、融合化は欠かせない要素であります。というのも屋根の集熱面から循環系のある壁、天井、蓄熱のための基礎の仕組、こんなところで設備と建築主体とが一体化しないと成立できないからです。ところが現在のところ殆んどの住宅は、やはり経済性から個別の空調換気機器に頼るところが主流といえます。シックハウス対策の24時間換気の義務付けなど、少しづつ変化はあります。ここ数年、一部の集合住宅を含め、全熱交換空調換気システムなど、熱エネルギーの損失を抑え、家全体を調湿、換気そして空調迄付加できる省エネルギー面でも秀れたシステムの普及も進んでいます。建築とこれらシステムとがもっと高度に同次元のものとして扱われるとその有効性はより高く期待できるでしょう。
そして、簡単に建築と一体化できる工夫があって、空気の循環系路を殆んど構造の躯体、内外の仕上と同時に出来る、言い換えれば、設備経路などを建築化してしまうシステムを研究できると普及率は飛躍的に上がります。住まいの空間を考え作り出す側と機械設備を考える側の密接な交流、協働化でこれらは達成できます。
小さな工夫の積重ねで、もっともっと大きな合理性、省エネルギーの点でも、そのメリットは期待できる気がしてなりません。特に輻射冷暖房に関する部分などはデザイン上だけでなくシステムの有効性そしてその活用面で大きな協働ができます。
こんなところから、建築・設備のイニシャルコスト、更にはランニングコストに至るまで大きな省エネルギーの成果が期待できるのではないかと感じています。