原点に戻った住まいづくり
快適な「住まい」を手に入れることは多くの人が望んでいます。設計の打合せをしているときに皆さん実に楽しそうで、夢を膨らませていますから。ところが住まい作りに力が入っているのは奥様のほうだけで,ご主人は「家内が気に入るのならそれでいい」という態度である場合が結構多いです。ご主人はお金を出す役,奥様はプランを考える役ということでしょうか。残念なことです。
そもそも、「住まい」とは二つの「性」が力を合わせて自分たちの「生」を全うするための装置です。どちらにとってもおろそかに出来る物ではありません。巣づくりをする多くの生き物を見ていると一部では役割分担もするようですが、家庭の営みは両者が力を合わせてしています。両者にとって大切な「生」を全うする装置を守っています。
生き物の一生は、「成長し伴侶を見つけ巣づくりをして、子育てが終われば自分の一生は終わり」と単純で、暮らしも単純と言えるでしょう。巣づくりの取り組も単純です。しかし社会生活を営む人の一生は他の生き物の一生とは比べ物にならないくらいに複雑です。
そう遠くない昔、住まい作りは○○家の体面づくりでもあり、男の仕事。家人の快適さよりも社会的体面を保った住まい作りが男主導で進められたりもしました。それが時代とともに移り変わって、人の住まい作りの取り組み方も同じようにまた変化してしまったということでしょうか。もう一度、生き物の原点に戻った夫婦にとって共に快適な巣、「住まい」、作りについて考えてみたいと思います。
夫婦が自宅で楽しむ住まい
時あたかも団塊世代が大量に退職をする時期になりました。彼らお父さんたちは今までゆっくり自宅にいることも無かったのではないでしょうか。日本の男たちが猛烈に働いている間,多くの日本の家庭の主婦は自嘲をこめて「うちは母子家庭のようなもの」といって嘆いたりしていました。これからはそろって自宅にいる,つまり「巣」にいることになりそうです。昨今、中年男性の料理学校に通うのがはやっているそうですが,良い傾向だと思います。料理が出来るようになって人を自宅に招き、ご馳走しながら腕自慢をしたいということでしょうか。なにはともあれ、自宅で楽しむことはすばらしいことです。体面のための男の住まいや子育てのための便利で快適な女の住まいのいずれとも違う、夫婦がそろって快適でともに楽しめる「住まい」の時代がやってきました。
その「住まい」での活動が、『子育て』・『明日の労働のための休息』から、『食う』・『寝る』・『遊ぶ』へと変わります。そこで、「楽しんで食う」、「食べて遊ぶ」ことが、住まいでの活動の主流になって欲しいと思うのです。さぁ、「ホームパーティーをしよう」です。
パーティのしつらえとしての住まいづくり
 |
親しい者が集まってくつろいだ雰囲気で食事をするホームパーティーには、迎える側の夫婦もそろってテーブルを囲めることが大切です。奥様だけが台所にこもってしまう事の無いようにオープンキッチンが好都合でしょう。もちろん対面式にします。手元がまる見えではせっかくの料理も不味くなります.写真のお住まいでは、I型キッチンの周りにステンレスの立ち上がりで手元を隠しその周囲に一枚板のカウンターを回しています。一部はテーブルとしての使い方が出来るように巾を持たせており、全体で長さが3.6メートルもあります。 |
そうした“晴れ”という意味では、人を招き入れる玄関は大切です。マンションの場合玄関が勝手口ほどの広さしかないことが多いのですが、その代わり通り過ぎるとき以外はスペースとしては何の役にも立たない廊下があります。二つ目の写真はそうした一般的なマンションのリフォームで、廊下のスペースまで玄関として取り込んだ例です。床の仕上材のテラコッタを部屋の入り口の直前まで張り、踏み込みを作って広く大きな玄関を演出しています。トイレへは、庭下駄という感覚で下足をはいて入ります。大勢の人の靴が並んでも窮屈な感じがせず、招かれる側に少しの非日常を感じさせます。パーティーの演出になります。気を張らない中に少しの“晴れ”を感じさせる空間作りが、大切ではないでしょうか。